田中農場では、ビールの苦みや香りを生み出す「ホップ」の栽培を行っています。2023年は4作目。鳥取県内ではホップ栽培をしている農家が少なく、生ホップを目にする機会もなかなかないというわけで、地域のみなさんにホップ収穫をぜひ味わっていただこうと体験会を開催しました。この記事では、ホップ畑や収穫の様子をお伝えします。
ホップの栽培と収穫時期
ホップはつる性の多年生植物で、和名は「セイヨウカラハナソウ」といいます。ビールの原料となり、苦みや泡、香りづけに使われています。また雑菌の繁殖を抑えて、ビールの保存性を高める働きがあります。
田中農場のホップ栽培は酒造メーカー黄桜さんから依頼を受け、2020年にスタートしました。日本国内で使われるホップのほとんどは、ドイツやチェコなどから輸入された海外産のものです。「国産原料にこだわったビールを作りたい!」という思いを受け、ホップ栽培にチャレンジすることになりました。
わたしたち田中農場のホップ畑があるのは、鳥取県八頭町姫路公園地区。標高500m以上あるので、鳥取市内と比べて5〜6℃低いです。ホップは冷涼な気候を好むので、鳥取県内でもホップ栽培に適した場所だといえるでしょう。山からのミネラル豊富な雪解け水が流れており、夏場でもひんやりと冷たいです。
ホップは、春から夏にかけて成長をしていきます。地域や気候によって多少変わりますが、4月頃に芽吹き、収穫時期は7月末頃となります。
- 4月 芽吹き
- 5~6月 ホップの蔓(つる)がどんどん伸びて5~7mくらいまで成長
- 7~8月 花が咲いてホップ収穫へ
ホップが実り、一番収穫に適している期間は約4日といわれています。そこで、仕上がったところから順番に収穫を行っています。
ホップ収穫体験会の様子
今回のホップ収穫体験会には、地域の方など約30名にご参加いただきました。みなさんと一緒にホップの収穫と選別を行います。
田中農場のホップは、八ヶ岳の麓にある山梨県北斗市の農家さんから分けてもらった苗から育てています。じつは北斗市のホップ栽培の歴史は古く、日本のホップ栽培の原点といわれています。ホップの中でも代表的な「カスケード」という品種で、香りがよく病気にも強いです。ホップに鼻を近づけると、柑橘系の爽やかなフルーツのような香りが感じられます。
収穫するホップは実ではなく、「毬花(まりはな)」と呼ばれる花が大きくなったものです。松ぼっくりのような形をしています。毬花を割ってみると、黄色いつぶつぶが入っています。これは「ルプリン」と呼ばれ、ビールの苦みと香りの元になります。
ホップは、地面から1メートル以上の高さの蔓(つる)に毬花(まりはな)が出てきます。つまり上に伸びれば伸びるほど、収穫量も多くなってきます。わたしたちのホップ畑では高さ5mのところにワイヤーをひき、そこから麻ひもをたらしてホップのつるが縦に巻き上がっていくようにしています。
ホップの収穫では、まず地面から1メートルくらいの高さで蔓(つる)を切ります。続いて機械にのって5mほどの高さまで移動し、蔓(つる)の先端部分を切り落とします。このホップの蔓(つる)を切って落とす作業を「蔓下げ(つるさげ)」といいます。秋にはホップは枯れてしまいますが、地面近くの蔓(つる)はそのまま残して光合成をさせ、株を育てています。
蔓下げ(つるさげ)を行っているところを動画にしています。
参加者のみなさんに機械にのって、5メートルの高さを体感してもらいました。「高い!」「怖い!」という声が…。5メートル上ると景色がガラッと変わります。
ホップ畑から収穫が終わったら、つぎはホップの葉・蔓(つる)・毬花(まりはな)を分ける作業です。
蔓(つる)を適当な長さにカットし、毬花(まりはな)を摘み取っていきます。逆さまにひっくり返すと作業がしやすいです。病気や虫などによって傷んでしまった部分は、赤くなっています。味が落ちてしまうので、赤くなってしまった毬花(まりはな)は使いません。
ちくちくするので、軍手やビニール手袋があるといいです。集中してもくもくと作業。すぐに毬花(まりはな)でいっぱいになりました。収穫していただいたホップは、ビールの原料として出荷されます。
ホップ収穫後の交流会で「追いホップ」
ホップ収穫体験会のあとは、参加者のみなさんでバーべーキューを行いました。「焼肉ホルモンすだく」さんのお肉とビールで乾杯です!
写真のビールに生ホップを浮かべているのは「追いホップ」です。作り方は簡単で、採れたての生ホップをビールに入れるだけ。なかなか生ホップを手に入れることはないはずなので、今回の参加者だけのお楽しみですね。苦みはなく、ホップの爽やかな香りが楽しめます。
アルコールが飲めない方には、ホップ入り炭酸水をお渡ししました。こちらもすっきりとした飲み心地。コップに浮かぶ様子も、鮮やかなグリーンで涼やかです。
バーべーキューに舌鼓をうちながらお話を聞いてみると、「鳥取でホップを栽培しているとは知らなかった」「ホップの収穫を初めて体験した」「しっかりとした香りで驚いた」など、ホップを見るのも触るのも初めての方が多かったようです。
日本国内で栽培されているホップのほとんどは、ビールメーカーと契約している農家によって栽培されているので、一般の方がホップを目にする機会は少ないと思います。わたしたち田中農場で栽培したホップも、酒造メーカー黄桜さんの「黄桜クラフトビール国産100%」で使われる予定です。
現在のホップ畑では、約80キロほどのホップが収穫されています。目標の収穫量100キロの80%。化学肥料も農薬も使わずに栽培しており、鶏糞や腐葉土を使っています。品質にこだわりつつ、今後は最大量の収穫を目指していきたいと考えています。
最近ではクラフトビールへの関心が高まり、国産ホップにも注目が集まるようになりました。国産のホップは独特のフレッシュさと、強い香りや苦みが特徴です。クラフトビールの個性や特徴はホップによって決まるといってもいいかもしれません。
また今回参加してくださったみなさまから、ホップに強い関心を持つ人はやはり多いと感じました。田中農場ではホップ栽培を継続しながら、国産ホップの魅力をより多くの方に知ってもらえたらと思っています。